初代代表挨拶


平和学と言われても、曖昧で、掴みどころのない印象を受けると思います。それは私も同じです。平和学とは一体何なのか。そもそも、学者によって平和学によって意味する範囲は異なります。ですから、この団体としては、平和学の範囲を平和の達成において必要な学問・情報すべて、としています。

 

では平和とは一体全体何なのでしょうか。私個人としては、平和とは、それぞれの心の中にのみ存在する何かであると考えています。また、そのプライベートな領域に、他者が絶対的価値観を押し付ける事はあってはならないとさえ思います。平和学を勉強すればわかると思うのですが、平和の定義は人によって違うのです。

 

では我々は何を目指すのでしょうか。何をすればよいのでしょうか。私は、非平和的状態を作り出している事象を取り除く事が必要だと思います。平和が意味する状態は人によって異なります。ただ一つ私が言えることは、戦争がある、武力紛争がある状態は絶対に平和ではないという事です。非平和的状態を作り出している諸問題。その中でも、確実に戦争が悪だと客観的に断定できるならば、まずはそこから。私はそう思い、興味を特に、武力紛争解決学に置いています。

 

戦争は悪だ、と断定した事に対して首を傾げる人がいるかもしれません。何故なら、戦争は時に、社会の悪(圧政など)を乗り越える際に、必要不可欠な道具として用いられうるからです。それ故、紛争のない世界は、既存の社会問題が放置されうる事態を招きかねないのです。

 

それでも私は、武力紛争をなくしたいです。武力を、血を伴わない社会変化は可能だと信じているからです。私は基本的に現実主義者なのですが、目指すところは理想主義的なのかもしれません。紛争解決学関連分野の進展を、そして国際システムや新しい概念の発展・普及を見る限り、課題は山積みですが、少しでも可能性はあるのではないかと私は考えてしまいます。可能性があるなら、諦めたくはありません。空を飛べるわけがないと多くの人は思いました。しかし、ライト兄弟はその常識を覆しました。戦争がなくなるわけがない。そう言う人の気持ちはよくわかります。しかし、理想を持ち、努力をしなければ、戦争は減るどころか増えていき、世界はどんどん良くない方向へと向かっていってしまうのではないでしょうか。

 

理想を持ったうえで、私が必要だと思うのは、冷静で、論理的かつ科学的な思考と議論です。情報を集め、丁寧に分析し、改善策を考え抜く。論文を発表し、地道な積み重ねを通して、例えば、国連平和維持軍のあり方について、実行機関にアドバイスを行う。ものすごく地味かもしれませんが、それでも必要な事です。少しずつ見識を深め、それを世に問い、それを皆でさらに深めていけば、世界のシステムは少しずつ変わってゆき、いつの日か戦争のない世界が訪れるかもしれません。言い方を変えるなら、武力を伴わない社会変化は可能となるかもしれません。

 

曖昧な表現でしたので、少し身近で具体的な話をしましょう。郵政民営化をする上で、日本国民は戦争を必要としたでしょうか。国民新党と自民党はお互いに武装組織を招集して、内戦が勃発したでしょうか。いいえ、そんな事態は起こりませんでした。当たり前のようですが、これが当たり前ではない地域も存在します。日本で可能なら、世界のどこか別な地域でも、それは不可能ではないはずです。そうは思わないでしょうか。

 

非平和的状態を作り出す様々な問題に対して真摯に向き合い、それを解決するための糸口を考える事。それがこの団体が提供する勉強会です。学生風情になにが出来る、笑わせるなと言う方もいるかもしれません。しかし、どうせダメだと諦めてしまっては思考停止です。考えて、考えて、そうしているうちにいつの間にか、周りの大人より賢くなっていくのが学生です。世界の最前線で活躍する学者や実務家の多くも必ず、学生程度の知識の時代がありました。彼らは考えるのを、学ぶのをやめませんでした。だからこそ、今この世界には有用な多くの理論や文献が存在するのです。学生風情でも、考え続けば、それがいつか、10年後か、20年後か、それは分かりませんが、実を結ぶことはあると思います。

 

私が専門としたい範囲は紛争解決学なのですが、団体として扱う範囲はより多くの学問を含みます。貧困削減を目的とした開発学であったり、国内の差別是正を目指す上で考えなければならないジェンダー論であったり。より多くの知見に触れることで、自分の専門を違う視点から批判的に観る事が出来ることもあります。これはとても重要な事です。実際、紛争解決学においても開発やジェンダーの問題は重視されています。

 

メンバーそれぞれが他の学生よりほんの少しだけ詳しい領域を持っていると思います。それをシェアできる環境は貴重です。私自身、勉強不足を自覚しています。多くの優秀な学生の方には呆れられてしまうかもしれません。それでも、誰も団体をつくろうとしないので、私が作るしかありませんでした。あるようでないものなのです。しかし、必要なのです。ないならつくるしかありません。

 

団体理念や活動内容に少しでも興味を持って下さった方は、是非お声をおかけください。お待ちしております。まだまだ新しい団体ですが、皆さんのお力を借りて、安定した団体へと成長させる所存であります。どうか温かい目で見守ってください。

 

日本学生平和学プラットフォーム 初代代表 菅生零王