【シンポジウム】日本の国際平和協力・災害救援を考える:オールジャパン連携の現状と課題

 

 

2016年5月11日

場所:早稲田大学

登壇者:上杉 勇司氏、谷口 正弘氏、山田 満氏、藤重 博美氏、本多 倫彬氏

511日に行われたJSAPCS主催のシンポジウム『日本の国際平和協力・災害救援を考える:オールジャパン連携の現状と課題』は無事終了しました。

 

平和構築やPKO、民軍関係、災害救援の専門家や実務家の方々をゲストパネリストに迎え、日本のPKOや災害救援活動、そしてオールジャパン連携について議論を深めました。

 

シンポジウムは貴重講義、パネルディスカッションの順に進みました。まず初めに、書籍『世界に向けたオールジャパン:平和構築・人道支援・災害救援の新しいかたち』の編者代表である早稲田大学教授の上杉勇司氏から、国際平和協力におけるオールジャパン連携とはそもそも何か、という点に関してご講演頂きました。合わせて、書籍の説明、連携の類型、ミンダナオ、イラクなど連携の過去例、そして連携における課題についてご紹介頂きました。

 

その後、国際災害救援活動(JDR)について、実際にフィリピン台風30号の対応でJICA JDR医療チームの一員として現地に派遣された谷口正弘氏より、実体験を交えた解説を頂きました。

 

パネルディスカッションは、キヤノングローバル戦略研究所の本多倫彬氏の進行で日本の国際平和協力、オールジャパン連携にまつわる様々な論点を、様々な立場から議論しました。

 

連携に伴う困難に関して、谷口氏からフィリピン台風30号の際の事例を紹介して頂きました。JDRチームの輸送は必ずしも、手続きに時間のかかる自衛隊が行う必要はなく、民間機を使用した方がスムーズに進むケースもあるとの事でした。書籍『世界に向けたオールジャパン:平和構築・人道支援・災害救援の新しいかたち』の著者の共通認識として、「オールジャパン連携自体が目的なのではなく、連携は目的を達成するための手段の一つに過ぎない。援助効果が最大になると思われるときに連携する。そうでない時にはしない」という点に触れて頂きました。

 

NGOなどでの経験の長い早稲田大学教授の山田満氏からは、NGO/市民社会の視点からオールジャパン連携を評価して頂きました。

 

これまでの日本の活動の評価に関して、上杉氏からは自衛隊をどう捉えるか、という視点が重要という指摘を頂きました。南スーダンやハイチなど、これまでの自衛隊の活動の基本形は重機を使ったものでした。このような国づくり、復興支援や災害緊急救援において連携は行われました。しかし、南スーダンのように情勢が悪化しNGO等が国外退去を命じられる中、自衛隊が本来持っている軍事機能を活用できるか否かが論点となってくると述べられました。「ある程度、治安が安定した場所での重機活動」を続けるのか、これまで行うことができなかった、「有事の際の軍事力を生かした活動」ができるのか、議論を深める必要があります。

 

谷口氏は、情報共有の側面で連携が重要だと指摘されました。過去の自衛隊とシビルJDRの連携においては輸送や医療機能の共有も多かったそうです。協力すべきか、協力しないべきか、を正しく判断するためにも、互いを知ること非常に重要であり、互いを知らずに協力するのと、互いを知っているが故に協力しないのとでは、後者の方がオールジャパンとしてより効果的な連携ができていると強調されました。

 

山田氏からは、民間の持つ非政治性が復興支援において有効であるという意見を頂きました。緊急支援においては軍などが比較的政治性を持たずに展開し支援を行う一方で、緊急支援から時間が経過した、行政機能や社会インフラの復興を行う段階において、NGOのノウハウやプレゼンスが活きてくると述べられました。

 

法政大学准教授の藤重博美氏からは英国など他の先進国の連携と比較して、オールジャパン連携を評価して頂きました。アフガニスタンなどでの経験から欧米では軍主導から民主導へと、民軍連携の形が変化しているそうです。日本においてオールジャパン連携はしばしば自衛隊ありきの連携となっています。国際的な潮流と比較し、文民主体の、自衛隊がない連携の形の可能性に関しても言及がなされました。

 

オールジャパン連携という概念自体が議論のたたき台となる必要性/重要性を本多氏、上杉氏は述べられ、シンポジウムは閉幕しました。

 

現場に近く、また多種多様な視座から、日本の国際平和協力を考える会となりました。日本学生平和学プラットフォームは、紛争や貧困問題など国際的な諸問題を考えるイベントを定期的に行って参ります。今後とも当団体主催イベントに足を運んでいただければ幸いです。

 

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【登壇者紹介】

上杉 勇司 氏

早稲田大学教授、特定非営利活動法人沖縄平和協力センター副理事長、広島平和構築人材育成センター 理事。防衛省統合幕僚学校国際平和協力センター/統合高級課程や防衛研究所一般課程の講師として防衛省・自衛隊の教育にもかかわる。ミンダナオ和平においては、独立警察委員会の日本政府派遣専門家を務めた。著書に『変わりゆく国連PKOと紛争解決』(明石書店、2004年)、『紛争解決学入門』(共著、大学教育出版、2016年)などがある。

 

谷口 正弘 氏

元国連世界食糧計画(WFP)日本事務所支援調整官 。これまでJICA国際緊急援助隊事務局、特定非営利活動法人難民を助ける会などに勤務。災害情報収集・分析、自衛隊との民軍調整、 JDRチーム派遣ロジ、支援物資配布・ 輸送などを中心に自然災害の緊急援助に従事。台風30号救援ではJDR医療チーム三次隊業務調整員としてタクロバンへ派遣。2014年ネパール地震ではFacebook の支援コミュニティを通じて支援者向けに包括的な情報提供や支援アドバイスなどを行う。 山田 満 氏 早稲田大学教授、早稲田大学地域・地域間研究機構AHC研究所所長。国連UNCHR協会理事。これまでに、アジア地域(東ティモール・カンボジア・アフガニスタン・ネパール等)での選挙監視活動に、内閣府や国際NGO派遣として従事。著書に、『「平和構築」とは何かー紛争地域の再生のために』(平凡社、2003年)、『新しい国際協力論』(編著、明石書店、2010年)などがある。

 

藤重 博美 氏

法政大学准教授。「安全保障」と「開発」の接点に焦点を当て、平和構築・国家再建、自衛隊や警察の役割を研究。著作に「国連警察の役割 と『法の支配』」『国連研究』(第14号、2013年)、『平和構築における治安部門改革』(共編著、国際書院、2012年)、『アフリカの紛争解決と平和構築』(共著、昭和堂、2010年、国家建設における民軍関係』(共編著、国際書院、2008年)などがある。

 

本多 倫彬 氏

キヤノングローバル戦略研究所研究員、東洋英和女学院大学非常勤講師。『平和構築と自衛隊国際平和協力の実相と日本流支援の形成』で博士学位取得。著作に「イラク人道復興支援と国連PKOへの自衛隊派遣」『国際安全保障』(第42号第3号、 2014年)、「軍隊の新しい主任務」『「新しい戦争」とは何か』(共著、ミネルヴァ 書房、2016年)などがある。