2016年度 勉強会

4月

第13回勉強会(平和学入門~平和学ってなんだろう)

5月

第14回勉強会(マーシャル諸島問題を考えるー人間の安全保障+環境の安全保障ー第1弾)

第15回勉強会(マーシャル諸島問題を考える第2弾ー現在にも続く核被害ー)

6月

第16回勉強会(クルド人ー国家なき民族の現状を世界難民の日に考えるー)

10月

第17回勉強会(食糧危機はなぜ起きたのかーグローバル時代のFood Securityを考えるー)


第13回勉強会

2016年4月18日

場所:早稲田大学11号館

内容:平和学

担当:長内

補佐:稲垣、木村友美

13回勉強会では、平和学についてその成り立ちと代表的な理論について学びました。

 


 ヨハンガルトゥングの直接的暴力・構造的暴力・文化的暴力について実例を交えながら紹介させていただきました。

平和学を自分ごととして考えるきっかけが生まれるものと思い、企画いたしました。

 

 参加された方は多様なバックグラウンドをお持ちで、一人一人がとても芯のある方々でした。お忙しい中お越しくださり、本当にありがとうございます。

 

 印象的だったのは、ディスカッションがとても活発だったことです。自身の周り・日本は本当に平和なのだろうか、それはなぜかという議題でこどもの貧困やテロの危険性等、様々なアイデア共有出来ました。勉強会が終わってもお話しをする場面を拝見し、とても実り多いものとなったと感じます。


 また「これから平和学を学ぶために、大学のカリキュラム等を調べていきたいと思う」などとても意欲的な感想をいただきました。



 是非困った時はJSAPCSのメンバーにお声掛けくださいね。

 


 本当にご参加ありがとうございました。
是非皆さんも、自分の身近に潜んでいる平和についてアンテナを張って生活してみてください。


第14回勉強会

2016年5月16日

場所:早稲田大学

内容:マーシャル諸島問題を考えるー人間の安全保障+環境の安全保障ー第1弾

担当:稲垣

14回勉強会では人間の安全保障と環境安全保障の概念の基礎を扱いました。

 

 

  まず始めに基本的な安全保障概念の変遷をおさらいし、その中で冷戦終結以前まで中心的な考え方であった伝統的な安全保障(リアリズム・リベラリズム)の概念を復習し、冷戦終結後、構造主義やコペンハーゲン学派を始めとした非伝統的な安全保障が台頭した背景を学びました。

 

 次に人間の安全保障という概念の定義とその変遷を勉強しました。次に人間の安全保障の概念自体が移り変わる中で、日本と人間の安全保障についての関わりを見ることで、日本がこの概念を世界の中でも積極的に推し進めてきた歴史を学びました。そして人間の安全保障が国家に脅かされた例として、グアテマラで行われたマヤ民族に対するジェノサイドを取り上げ、国家は人間の安全保障を阻害するアクターになりうることを勉強しました。

 

 そして、環境安全保障の概要では、現在ある議論を人間の安全保障の枠で捉えられる環境安全保障と、捉えられないものに二分し、その中で冷戦終結後に環境安全保障の概念がどう発展してきたか学びました。また現在行われている取り組みでは、2015年にパリで開かれた第21回気候変動条約会議や今年から施行された持続可能な開発目標を取り上げ、環境保全に向けてのアクションを勉強しました。

 

  ディスカッションのセクションでは、まず伝統的な国家安全保障と非伝統的な人間の安全保障を比べ、現代世界においてどちらが重要視されるべきか考えました。意見はいろいろでしたが、多くの参加者はどちらも重要にしながらも、時代に合わせて柔軟に対応にしていくべき、という意見を持っていました。次に身近にある人間の安全保障の例について考え、それに対して私たちができることを考えました。例としてはホームレス、いじめ、差別などが挙げられ、まず自分の考え方や見方を変える、という意見が多く出されました。

 

 

 様々な意見を活発に行っていただき充実した勉強会にできました。ご参加ありがとうございました。


第15回勉強会

2016年5月23日

場所:早稲田大学

内容:マーシャル諸島問題を考える第2弾ー現在にも続く核被害ー

担当:稲垣

15回勉強会ではトークセッションに備えて、マーシャル諸島共和国の概要と歴史、現在ある問題について学びました。

 

  最初に人口や面積、政治体制などマーシャル諸島共和国の基本的な情報を扱いました。次に植民地支配以前、スペインによる発見から日本による植民地支配終了まで、核実験時代、それ以降から現在、と4つの期間に分け、国がたどってきた道について勉強しました。その中で様々な国に植民地支配され、第二次世界大戦終了後は核の実験場として使われたマーシャル諸島の複雑さが際立ちました。

 

 間にカルチュアル・アクティビティーとして日本が太平洋諸国をイメージして作ったCMや本を見て、私たちが抱く太平洋諸国の人々のステレオタイプについて考えました。その後、現在も残る核被害として健康被害や環境被害を扱い、また核実験後、自分の生まれた土地に帰ることのできない人々の存在について学びました。最後に現在行われている活動として、太平洋諸島フォーラムの取り組みやマーシャル諸島による訴訟を知りました。

 

 

 

 ディスカッションのセクションでは、まず始めに核廃絶と核保持どちらを目指した方がよいのかについて話し合い、核廃絶が理想的ではあるが、現実的に考えて核の技術をなかったことにすることはできない、という意見などが出されました。次に核戦争を防ぐにはどうすればよいか、という問いが出され、国家同士の相互理解やコミュニケーションの大切さを話合いました。

 

 

 

 

 今回はお越しいただきありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します。

 


第16回勉強会

2016年6月20日

場所:早稲田大学

内容:クルド人ー国家なき最大の民族の現状を世界難民の日に考えるー

担当:山本、齊藤

第16回勉強会では、難民に関する基礎知識とクルド人の現状を取り扱いました。

 

 前半には勉強会実施日が、国連が2000年に制定した「世界難民の日」であった上、クルド人は数多く存在する難民のうちの一つの民族であることから、難民問題全体を総括することを目指したレクチャーを行いました。難民問題が各メディアで取り沙汰されるようになったきっかけは何か?といった根本的な問いを立てることも行いました。続いて、難民条約を根拠として、どのような義務・裁量が締約国にはあるのか、また、UNHCRは各国に対してどこまで権限を有するのかといった、法的地位を確認しました。その上で、具体的に何が難民「問題」であるのかを4つの視点から考え、さらには、難民法の国際的権威であるミシガン大学教授のJames Hathaway教授が提唱されている「5つの提案」を紹介しました。

 

 ディスカッションパートでは、「難民問題に対して、日本政府は何をすべきか?」「難民問題に対して、日本の学生は何ができるか?」という2つの問いを、参加者の皆様同士で話し合っていただきました。前者に関しては、「日本の国際的立場を維持し続けるには、日本が得意としている資金協力に注力すべきなのでは」「難民認定数を制限している法務省にも何かしらの意図があるはずだから必ずしも非難はできないのでは」といった意見を頂戴しました。また、後者に関しては、「学生らしく、しっかりと知識を蓄えることなのでは」「ユニクロが実施している衣料品回収に参加するのも良い方法なのでは」と言った意見を頂戴しました。

 

 すべてのパートを終えたところで、登壇者側から2つの視座を発信し、全体で共有しました。第一に、「日本の難民認定者数が少ないことは、よく知られたことである。しかしながら、日本に来る難民の数自体、先進国としては多くないことは、あまり知られていない。これほど平和な国家であり、紛争や迫害等の恐怖から逃れるには最適と言っても過言ではない日本に、人々がぜひ身を寄せたい、と思わない理由をぜひ考えていただきたい。」ということです。第二に、「レクチャー内で、『家を追われ移動を強いられた人々』は6000万人、すなわち日本の総人口のおよそ2分の1の数であると紹介した。この数を耳にして、漠然と『多い』と感じたのではなかろうか。しかし、この『6000万人』という数は、一人一人の集積があって、ここまで膨らんだことを忘れないでほしい。わたしたちは、当事者ではないので、彼らの気持ちを理解するには及ばないが、少なくともそこには、一人一人が大切にしていた生活があったのだ、という視点を持っていてほしい。」ということです。

 

 

 

 

 後半では、難民の中でもクルド難民に焦点を当てて勉強会を行ないました。3部構成で行ない、第1部ではクルド人、第2部では在日クルド人、第3部ではクルド人と日本人の共生について解説しました。

 

 

 第1部では、国をもたない世界最大の民族であるクルド人について知ってもらうことを目的とし、クルド人の基本情報、クルド人の歴史、およびクルド人の現状について解説しました。具体的には、国際社会から少数派として見なされているクルド人がなぜ国をもたない世界最大の民族であるかを伝えるために、クルド人の総人口がイラクの総人口より多いこと、および正式には認められていないクルド人国家であるクルディスタンの規模が日本の総面積の約1.5倍であることを伝えました。クルド人の人口規模および居住地の規模を踏まえた上で、なぜクルド人が未だに国をもっていないのかを解説するため、第1次世界大戦後の国際社会の動きを説明しました。第1次世界大戦後、当時クルド人が住んでいたオスマン帝国にクルド人国家が作られる予定であったにも関わらず、連合国の国益のためにクルド人国家建設は放棄になると同時に、連合国により恣意的に引かれた国境線により、クルド人は主にトルコ、シリア、イラン、イラクの4カ国に分割されたことを解説しました。以降、トルコ、シリア、イラン、およびイラクによる迫害および同化政策に対抗し、クルド人は独立を目指して争いを行なってきたことを説明しました。例として、イラク・イラン戦争を挙げ、イラク政府がクルド人を化学兵器で虐殺したハラブジャ事件を紹介しました。クルド人虐殺に用いた化学兵器の製造には、イランによるイスラム革命の波及の阻止および自国の経済支援のため、欧米諸国の企業も携わっていたことを伝え、欧米諸国の責任も問いました。さらに、アメリカを始めとする国家が自国益のためにクルド人の独立感情を利用して戦争における戦力として利用してきたことも説明し、クルド人がいかに中東情勢および国際情勢と関わりがあるかを解説しました。次にクルド人の現状について話し、シリア紛争によりクルド人が難民として不安定な生活を強いられていることを解説しました。ヨーロッパでは難民危機が報道されているものの、難民として避難できる経済力をもっている難民はごく一部であり、多くは紛争下にいることを伝えました。

 

 第2部では、クルド人の難民問題が遠くの地の問題ではなく、身近な問題であることを実感してもらうことを目的とし、在日クルド人について解説しました。クルド人は日本において1人も難民認定されていないことを伝え、背景にはトルコと日本の友好関係があることを解説しました。難民認定の代わりに仮放免のステータスを与えられていることを伝え、仮放免としての暮らしぶりを紹介しました。在日クルド人は、日雇いの仕事で生活しており、スマートフォンなども持っていることから、見た目は難民に見えない一方で、精神的ストレスを始め目には見えない苦悩を抱えていることを伝えました。第3部では、クルド人と日本人が共生していくためにはどうすべきか考えてもらうことを目的とし、両者の姿勢を紹介しました。クルド人は、日本社会に受け入れてもらうために市内パトロールや公園の清掃、熊本地震の被災地におけるボランティアを行なっていることを伝えました。一方、日本人はクルド人に対して無知、無視、または治安を懸念する姿勢を示しており、クルド人に対するネットの書き込みを紹介しました。

 

 ディスカッションでは、クルド人と日本人が共生するためにはどうすべきか考えることを目的とし、3つの問いについて議論しました。1つ目の「日本人が気にする「治安」の定義とは?」の問いに対しては、同一性や自分のテリトリーを侵されること、安心できる雰囲気が挙げられ、定義できないと答えた班もありました。2つ目の「治安と難民受け入れのジレンマを克服するには?」の問いに対しては、在日クルド人を国家ベースで正しく認知すること、外国人に対する意識を変えること、言語習得および就労支援をすること、および認定ではなく帰化など別のルートで支援することが挙げられました。クルド人を難民として受け入れられない法務省なりの事情がある、および難民という言葉に囚われすぎているため、留学生として受け入れたらどうか、との主張もありました(話し合いの結果、資金的に留学生として受け入れるのはきついという結論になったそうです)。3つ目の「共生に向けて日本人、一個人としてできることは?」の問いに対しては、クルド人を知り理解することが重要であるとの意見がありました。また、国民性に対する意識の問題が挙げられ、クルド人に対して同化を求めるか、クルド人としてのアイデンティティー維持を支援するかのどちらを優先するかが難しいとの意見もありました。最後のまとめでは、クルド人と日本人が共生していくために、クルド人について知るだけではなく知らせること、および個人的な接触を通じて、クルド人と日本人の枠を超えて個人と個人の関係を築くことを提案しました。

 

 

 

 

ご参加いただきました皆様、ありがとうございました。


第17回勉強会

20161024

場所:早稲田大学

内容:食料危機はなぜ起きたのか –グローバル時代のFood Securityを考える-

講師:川越 結さん

担当:山本

講師プロフィール:

早稲田大学国際教養学部卒。学部でリヨン第3大学(フランス)に交換留学。現在、東京大学大学院農学生命科学研究科農業・資源経済学専攻修士課程に在籍し、農業経済学修士号取得予定。NPO法人セカンドハーベスト・ジャパン( https://www.2hj.org/ )元インターン。学部時代にはSILS MUSIC CLUBに所属。


 

17回勉強会では、同月16日が「世界食料デー」であることから、食料問題をテーマとしました。

 講師に、東京大学大学院農学生命科学研究科農業・資源経済学専攻修士1年の川越結さんをお迎えし、近年の食料危機に関するレクチャーをしていただきました。 

 はじめに、食料の特徴・農作物市場の特徴を示した上で、食料危機の原因を考察してくださいました。食料危機の直接的原因には、数年に一度の干ばつなどの天災、バイオエネルギーの需要拡大による穀物価格の増大などが、間接的原因には、投機マネーの流入による原油価格・穀物価格の高騰、各国(特に東南アジア諸国)の人口増加に伴うGDP per capita(=1人当たりの購買力平価)の上昇、世界的な食肉消費量の増加などが、例として挙げられました。近代技術の進歩や、農業への安価な化石燃料の導入により、農業の効率化が進んだのも事実ですが、一方で、生産量増加による食料価格の下落が、農業の収益性の下落へと繋がったそうです。また、経済的・政治的要因の為に、発展途上国の農業生産力や持久力の欠如を引き起こしているという実態についても触れてくださいました。

 さらに、食料の分配の不均一が貧困を生み出しているという皮肉な現実や、食料となるはずの穀物がバイオエネルギー生産に回される傾向が強まっている現状に加え、日本は「『不足を前提とした農業』へ切り替える必要があるのではないか」との問題提起をしてくださいました。いずれも解決しなければならない問題でありながら、取り組みの厳しいものでもあり、難しい顔をしながらレクチャーを受ける参加者の姿も見られました。

 

 講師への質疑応答では、「食料危機を再発させないためにはどうしたらよいのか?」「現在、我が国では農家の後継ぎが減少しているという現状を踏まえ、不足を前提とした農業はどのように実現していくのか?」など、多くの参加者から質問が寄せられました。また、弊団体メンバーは、この勉強会に先駆けて自主勉強会を行っており、その際に挙がったいくつかの質問を講師に対して行いました。 

 ディスカッションでは、「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)は、日本の農業にとって有利か不利か」というテーマで議論を行いました。工業におけるTPPのメリットは認めつつも、農業においてはTPP加入によるデメリットが大きいだろう、というのが殆どのグループの意見でした。農作物のブランド化に対しては、「国際市場においてタイ米と日本米は競合するのか」「各地の伝統農業を維持するための工夫はどのようにするべきか」「ブランド化を推進する一方で、安価な農作物との競争に勝てるのか」という疑問が挙がりました。参加者同士で、多くの懸念や提案が飛び交い、様々な視点から食料問題を捉え直す機会となりました。

 食料は、人類が生命を維持する上で不可欠であるにもかかわらず、特に日本人は、食料問題を軽んじてしまう傾向にあるのではないでしょうか。日本国内では、近所のスーパーやコンビニで、常に食料が陳列されている光景を目にするため、現存する食料問題が可視化されにくいのかもしれません。

 

 今回参加してくださった皆さんにとって、いま一度、食料問題に気付きを得る機会となっておりましたら幸いです。ご参加くださり、どうもありがとうございました。