試写+シンポジウム

開催日時:2015年12月8日(火)18:10-21:25

開催場所:早稲田大学3号館203教室

入場時刻:17:50ー18:10

入場料:無料

 

主催:日本学生平和学プラットフォーム

協力:映画配給会社ビターズ・エンド様、早稲田大学国際教養学部教授上杉勇司様

 

ゲスト:

駐日アルメニア大使 グラント・ポゴシャン様

東京大学教授 佐藤安信様(元UNHCR法務官・UNTAC人権担当官)

東洋英和女学院大学教授 滝澤三郎様(UNHCR駐日代表)


 12月8日(火)に行われた「20世紀最初のジェノサイド? ~迫害される人々の今と昔『消えた声が、その名を呼ぶ』先行試写付きシンポジウム」は盛況の中無事終了しました。関係者を除き80名以上の方にご来場いただきました。イベントの趣旨は、アルメニア人虐殺を扱った映画『消えた声が、その名を呼ぶ』を起点に、過去、そして現在のマイノリティ迫害や虐殺、故郷を追われた難民問題について学び、これからの世界の在り方を考えるというものでした。

 

第一部では、12月26日公開の『消えた声が、その名を呼ぶ』の先行試写を行いました。監督のファティ・アキンはベルリン国際映画祭、カンヌ国際映画祭、ベネチア国際映画祭という世界三大映画祭で主要賞を獲得した若き巨匠。映画は20世紀初のジェノサイドとも言われるアルメニア人虐殺を題材にしたロードムービーです。150万人が犠牲になったとされる虐殺から今年でちょうど100年になりますが、加害者側とされるトルコと被害者側とされるアルメニアのあいだでは、依然歴史認識に関して深い溝があります。それもあり、トルコ系ドイツ人のファティ・アキン監督が、アルメニア人の物語を映画化したことは大きな意味を持ちます。映画は、ジェノサイドを描いたものではなく、あくまでもそれを出発点として、父親が離れ離れになった娘を探す話が大きなテーマとなっています。それが現代の難民問題にもつながっていくのではないか、と監督は話しているそうです。


 

第二部では映画を受け、アルメニア人虐殺だけではなく、迫害、歴史認識、ジェノサイド、和解と平和構築、難民問題など現代世界が抱える諸問題について考えるシンポジウムを行いました。ゲストには、駐日アルメニア共和国大使グラント・ポゴシャン氏、国連難民高等弁務官事務所法務官・国連カンボジア暫定統治機構人権担当官などを務められた東京大学教授の佐藤安信氏、そして元国連難民高等弁務官事務所駐日代表で東洋英和女学院大学教授の滝澤三郎氏の3名をお迎えし、司会は日本学生平和学プラットフォームの菅生と黒岩が担当しました。

 

虐殺の犠牲になったひいおじいさま、トルコからアルメニアへ命からがら逃げ延びたおじいさまを持つ、駐日アルメニア共和国大使グラント・ポゴシャン氏には、アルメニア人の目線から虐殺、現在のアルメニアやトルコとの関係についてお話しいただきました。生き延びたおじいさまは、道中で両親と妹を亡くし、その辛さから本を出版するまで長年あまり多くは語らなかったそうです。また大使は、虐殺の被害に遭った個人の話を集めたウェブサイト(https://100lives.com/en/)を紹介されました。

 

大使には、アルメニアとトルコの歴史認識の違いに関して、トルコにジェノサイドを認めてほしいという気持ちはあるものの、一番大切なことは虐殺に関する話を伝えてゆくことだとコメントを頂きました。またナチスドイツを例にとったうえで、特定の個人に非があるのであって、トルコ人が悪いというわけでは全くないと、述べられました。

 

その上で、異文化のそして歴史を深く学ぶことが平和への第一歩だと来場者に呼びかけました。

 

東京大学教授で、カンボジアでの経験を持つ佐藤安信氏には、アルメニアとカンボジアでの虐殺の共通点などについてお話しいただきました。1つ目の共通点は、誰にでも起こりうること。つまり、殺さないと自分が殺されるという恐怖の連鎖の中で、誰でも殺す側にも殺される側にもなりえると指摘されました。2つ目に、国際政治が背景にある点を述べられました。カンボジアの場合は、ベトナムや中国、アメリカなどが背景にあり、アルメニアの場合も、第一次世界大戦という国際社会の状況が虐殺の背景にあったとご説明頂きました。3つ目には、体験談を交えつつ、一番先に犠牲になってしまう、スケープゴートにされてしまうのは、弱い人達、女性子供や何の武器を持っていない一般の民間人だという現実に触れて頂きました。

 

また佐藤教授は、法律家としての立場から、過去とそれに起因する対立・憎悪をどのように乗り越えてゆくか、コメントを頂きました。殺されなければ殺されるという状況の中で、やむを得ずやってしまったという点などで裁判はとても難しい。しかし、復讐心をそのままにしていては争いは終わらない。公権的な形で裁き、前に向かって進むステップとしての裁判の重要性を強調されました。それと同時に、法が押しつけであるべきではなく、現地の習慣、慣習といったものを学びながらその中で良い物は採用し問題があるものは修正するという地道な努力を続ける事が重要だと述べられました。

 

最後に、日本の難民問題に関して、ご自身が担当したミャンマー難民による殺人事件を例にとり、お話されました。平和なはずの日本で何故そのような事が起きたのか、自分たちとは違う人たちにとっては住みにくく、馴染みにくいのかもしれない社会を我々自身見直す事も非常に重要だ、とご自身の見解を共有されました。

 

元UNHCR駐日代表の滝澤三郎氏には、主に難民問題についてお話しいただきました。映画の中のような虐殺問題や国を追われることが、今もシリアやイラクなどでは起きており、決して100年前だけの問題ではないと強調されました。その要因として、政府の弾圧、脆弱性など国の崩壊についても言及されました。家族と引き裂かれた難民の実情に関してもお話しいただきました。

 

日本の難民受け入れ状況の裏側に関しても言及され、日本に来る難民がそもそも少ない点、不法移民の難民制度乱用問題、法務省の審査の厳しさなど様々な問題をご紹介頂きました。このような地理的、そして制度的なことで、日本は難民にとって来にくい国となってしまっているそうです。難民に留まらず、違いを認めてゆく共生社会を目指すことが重要だとも指摘されました。

 

また、難民を受け入れないことにより、日本は失っているものも大きいと指摘されました。日本が例外的に豊かで、世界の現実は厳しいということについて難民の方々から話を聞いてほしいと来場者に呼びかけました。そして、頑張っている難民の方々と積極的にふれあい、元気をもらってほしいとおっしゃりました。

 

限られた時間の中、映画を起点に世界の諸問題について考える密度の濃いイベントとなりました。この度、映画を提供していただいた配給会社ビターズ・エンド様、また様々な面でご協力いただいた早稲田大学教授上杉勇司様、ゲストの皆様、そして学内外問わずご来場いただいた来場者の皆様に改めて御礼申し上げたいと思います。

 

日本学生平和学プラットフォームは、紛争や貧困問題など国際的な諸問題を考えるイベントを定期的に行って参ります。今後とも当団体主催イベントに足を運んでいただければ幸いです。